中学生部門 優秀賞

自分事として捉えて

京都府南丹市立園部中学校 3年 川勝 梨世

「お母さんお父さん助けて…。私はここにいる…。」
今から四十五年以上前の秋、新潟に住む一人の女子中学生が部活動後の下校途中に拉致された。船に乗せられ、着いた先は北朝鮮。家族や友達には会えず、反抗すれば殺されるかもしれない状況。来る日も来る日も日本に帰ることを夢見て、遠く離れた家族も友人もいない土地で懸命に一日一日を過ごす。突然幸せな毎日を奪われ、知らない土地にぽつんと立ちすくむしかない。明日を生きることができる保証は何もないのだ。

「もしも、自分だったら…。」
社会科の授業で横田めぐみさんが拉致された事件を題材にした映画「めぐみへの誓い」を見た。私と同じ中学生。私と同じように父と母と弟と暮らしていたのに…。そんな彼女が、荒波で揺れる船内から「助けて」と声を枯らし泣き叫び、助けを求める痛烈な描写が今でも私の心に深く刻まれている。自分と彼女の姿が重なって見えて、胸が張り裂けそうになり苦しかった。私の想像を絶するほどの不安と恐怖を彼女は体験しているに違いない。突然、子を引き離され、失踪した子の親とされた横田さんご夫婦の心情は、言葉では表わすことができないほど辛くて悲しいことだ。

私は「拉致問題」について知ってはいた。思い返せば、この人権問題に触れる機会はいくらでもあった。しかし、
「そんな問題があったんやなぁ…。」
と、自分には関係が無いこと。まるで他人事かのように捉えていた私が確かにそこにはいた。授業を通して、仲間と人権について考えている中で、そんな過去に抱いていた自分の感情に気づいた。感心を持たないことは、本当に恐ろしいことであることを実感した。拉致問題が未だに解決していないのは、かつての私のように日本人でありながら、問題の本質に目を背けてしまっている人が多いことが最大の問題ではないだろうか。

授業で仲間と意見共有をした際にテーマとして設定されていた「歴史を正しく知って自分で考える。」これは、私たち中学生に今、一番求められていることであると感じる。

拉致問題において一番深刻であるのは、長期間に渡り問題が壁にぶつかってしまっていること。結果として、被害者をはじめご家族の方も高齢化が進んでしまっていること。そして、返還を要求する活動が衰退し、問題が風化しつつある危険に陥っていることだ。

国家間の問題として、目を背けるのではなく、アンテナを高く張り、自分事として捉える。中学生の私は、非力さに気づき、自分の存在をちっぽけに感じるかもしれない。それでも私は、歴史を正しく学び、問題の早期解決に向けて働きかける国民の一員としての役割を果たし続ける。