高校生部門 最優秀賞

一人ひとりの人権

関西創価高等学校 3年 松本 優心

家族皆で仲良く暮らしていた横田家。当たり前だった日常がある日突然奪われた。その日から時計の針は止まったままだ。

私はこれまで、もちろん拉致をすることは絶対に許されないことであるし、拉致被害者の当時の心境を考えると想像もできないくらい怖く孤独な思いをしたのだろうと思ってきた。また、大切な家族を失った拉致被害者家族の気持ちを考えると一日でも早く帰ってきてほしいと思うのは当然だと思ってきた。しかしその反面、長年北朝鮮にいると北朝鮮での人間関係もできるはずなので、拉致被害者は日本に戻ることを本当に幸せと感じるのだろうかとどこか疑問に思う気持ちもあった。

しかし、拉致問題について学んで私の考えは変わっていった。アニメを視聴したり、資料を読んでいく中で、恥ずかしながら私はどれだけ拉致問題のことを知らなかったのかを痛感した。特に北朝鮮で工作員の教育係として働かされていた事実はとても衝撃的だった。自分の大切な家族が犯罪に手を貸すことをさせられている。それを知ったご家族はどんなに辛い思いをしただろうか。また、私は奇跡的に帰国することができた蓮池さんのインタビュー記事を読んだのだが、そこには、「北朝鮮で持てた自由は考える自由だけ」「『本音と建前』を区別して発言することが北朝鮮での保身術」とあった。人権の二文字を全く無視した国だと改めて思った。これらの事実を知り、ご家族が帰国を望まれることはもちろん、拉致被害者も日本が恋しく、日本のような人権の保証されている国に行きたいはずだと考えが変わった。

私と同じように「北朝鮮に日本人が拉致されて、ご家族や政府が拉致被害者の帰国に向けて活動している」という表面上だけを知って、分かった気になっている人がたくさんいるのではないかと思った。もちろんこの事実自体を知ってもらうことはとても大切だ。知らなかったら何も始まらない。しかし、それだけでは何の解決にもならない。拉致という国家犯罪が行われていて、その被害は様々な国にあること、一人ひとりの尊い生活が突然奪われ人権のない暮らしを強いられたことをよく理解し、世界の問題として、人が生きていく上で欠かすことのできない人権を脅かす事態であることを強く認識する必要がある。何十年後かには拉致被害者やそのご家族が亡くなってしまう日が来る。しかし、その日が来たとしてもこのことは過去に起きたこととして時効にしては絶対にいけない。拉致被害者やご家族が感じた孤独、寂しさ、苦しさ、怒り、望みといった感情を私たちが受け継ぐ必要がある。そして、行動として社会で示していかなければならない。一人ひとりの人権を守るために。